
【読書感想文】
『男性の誕生 「黄金のろば」の深層』
M・L・フォンフランツ 著
松代洋一 高後美奈子 訳
紀伊國屋書店
これ以上男らしくてもわたしは殺されていただろうし、これ以上に男らしく無くてもわたしは殺されていただろうと思う。何に?母親に、母性に。
わたしが現在生きていられるのは、わたしを取り巻く母性に対してちょうどよい「男らしさ」を保てたからです。
母親…母性は、子供を生み、生かしもするけれど、殺しもする。それはまるで自然や生命そのものであるかのように振る舞う。
こどもと母性との関係において生と死との境を分けるものが何なのかと言えば、それは「性」です。「男性であることかつ女性であること」。
または「女性であることかつ男性であること」。このことが母性に殺されないために決定的に重要になってきます。
だからどんな「性」も「母性」から切り離して考えることはできない。母性から切り離されて思考された「性」はこころも身体も無いただの概念です。
M・L・フォンフランツ 著『男性の誕生』。マザーコンプレックスの解消が主なテーマですが、私自身は典型的な「母の息子」
なので本書に書かれていることが実感をもってよくわかります。この本には一人の男性の中に「母性」というものがどのように現れ、
人生を破壊し、また再生するのかその過程が緻密にそして感動的に書かれています。
たぶんこの本を初めて読んだのは20代中盤でしたが、私はこの本を羅針盤として人生を歩んできました。母親、祖母、叔母、近所のババア、…、
私は過剰で狂っていて、喜びに満ちて絶望している、そんな母性に囲まれて生きてきました。私の周りの「男らしい男」は不幸な死に方をし、
「男らしくない男」は不遇な人生を過ごしています。私自身は「男らしい男」と「男らしくない男」との間を保つようにしていますが、
その絶妙なバランスを保つ為には男性のなかの内なる女性性『アニマ』との関係が決定的に重要になってきます。
男性であるわたしの中の女性性を生きること。その表現の仕方は人よって千差万別、一人一流。私自身は『男性の誕生』からその為の方法というか、
考え方を学びました。日本語版はタイトルが『男性の誕生』ですがドイツ語版のタイトルは「男性における女性性の解放」。
こちらの方がこの本の内容をストレートに表しているのかもしれません。大切な事は男性が男らしく振る舞うことではなく、
男性が内なる女性性を解放することです。もちろんそれは簡単な事ではありません。何千年とかけて女性性は男権的、家父長的な男性によって抑圧、
圧殺され続けてきたからです。だからひとりの人間がマザーコンプレックスを解消することは個人的な課題であると同時に
歴史的な問題に取り組むことでもあります。だから困難なことでもあるのですが。でも、やらなければならないことです。
私が今回『大アニマ展』を挙行することができるのは本書『男性の誕生』があったからです。こころや身体という複雑怪奇かつ危険極まりないものに
直接取り組むことができ、私が決定的に狂ったり死んだりせずに絵を描いたり表現ができているのはこの羅針盤があったから。
私がほぼどこにも発表せずにただただ作り続けることができたのもこの羅針盤があったから。何の結果も出ない、
何の成果も出ない日々に耐え抜けたのもこの羅針盤があったから。わたしがこころ、身体を信じ抜くことができたのはこの羅針盤があったから。
今わたしが静かに幸せなのはこの羅針盤があったから。
というわけで『大アニマ展』。「男性の誕生」とまではいかないですが、
「女性性の解放」くらいは感じてもらえるかもしれません。わたしのこころの師、マリー・ルイーズ・フォンフランツさんに感謝を込めて、
久しぶりの読書感想文でした。
2023年3月7日 記